1.特別企画 統合失調症の認知治療法

1() SSTと認知治療法をどうするか

井上和臣1),北田政司2),小谷尚子3)
1) 鳴門教育大学教育臨床講座 2) 医療法人敬愛会 南海病院3) 医療法人敬愛会 地域生活支援センター オリーブの木


はじめに

 社会生活技能訓練(social skills trainingSST)と認知療法(cognitive therapy)とは認知行動療法(cognitive-behavioral therapies)に包含される治療法である。SSTが主として顕在行動を標的とする介入であるのに対し,認知療法は認知の変容を重視すると考えられている。

認知療法はうつ病の短期精神療法としてBeckにより開発されたが,その後不安障害,摂食障害,薬物乱用,パーソナリティ障害などの治療法としても認められるようになった。さらに新しい世紀を迎え,適応はますます拡大する方向にあり,統合失調症は認知療法の重要な治療対象となってきている1

小論では,統合失調症に適用されるとき,認知療法はSSTにどのように寄与するかについて,私見を交えて論じることとする。  

症例

まず症例をひとつ提示したい。この症例は,急性期には幻覚妄想とともに精神運動興奮を示し複数回の入院を余儀なくされていた慢性統合失調症の患者3である。陽性症状の消退後に参加したSSTの目標は,服薬アドヒアランスを高めることに加えて,対人関係における緊張感を少なくする(患者のいわゆる「あがり性」を治す)ことであった。10セッションのSSTによって「あがり性」 の程度は改善した(SST前:100SST後:30)が,その過程でSSTに認知療法を導入する機会があった。

この患者の場合,「話しかけても相手が黙っている」という状況下で「私は拒否されている」という非機能的認知をもちやすかった。患者のいわゆる「あがり性」に,この「私は拒否されている」という認知が影響していることが想像できた。そこで,他のセッション参加者に,沈黙の理由として考えられる事柄を,反証(evidence against)として列挙してもらった。「相手は眠くて,私の話を聞いていなかったのだ」という別の説明(alternative explanation)が,このときの患者をもっとも納得させる新たな認知(適応的反応)であった。

SSTにおける認知療法

周知のように,SSTで訓練されるべき技能には,状況に注意を向け相手からの情報を正しく受け止める受信技能,社会的文脈の中で情報を分析・解釈しどういう反応が妥当かを評価・判断する処理技能,判断に基づき自分の意思や感情を効果的に表現し相手に伝える送信技能が含まれる。ところが,多くのSSTセッションがもっぱら送信技能の不足に着目し,参加者の主張行動を高めることに力点を置きがちである。

しかし,SSTでは行動的機能だけではなく,感情的・認知的機能をも含む広範な技能獲得を視野に収めておくことが必要である。SSTを効果的にする上で,認知療法がめざす非機能的認知の修正と機能的認知の開発が,上述の症例のように,不可欠になる場合があろう。

統合失調症における認知

認知療法が取り扱う認知(cognition)とは解釈であり意味づけである。ただし,それは治療者が行う解釈ではなく,患者が自己と世界と未来に賦与する個人的意味づけ(idiosyncratic meaning)である。認知というと,何か特別なものを想定してしまいがちである。しかし,むずかしく考える必要はない。認知は何よりも患者の訴えを正確にとらえることから得られる。訴えをありのまま記述することが,治療の標的となる認知に至る第一歩である。

ところで,認知療法では,認知は自動思考(automatic thoughts)とスキーマ(schemata)/信念(beliefs)に大別される。自動思考は,ある状況下で患者の脳裏に浮かぶ思考や視覚的イメージをいう。一方,スキーマあるいは信念は,自動思考の基礎にあって,さまざまな状況下で認められる,恒常的な認知をさす。スキーマは過去の体験から形成され,私たちが状況を解釈するときの鋳型の役割を果たすと考えられている。スキーマは特定のストレス因によって活性化されることで,自動思考を生じさせる基礎となる。スキーマは再燃・再発に関わる重要な認知とされている。

統合失調症に対する認知療法では,とくに幻覚・妄想といった陽性症状への介入が注目されている。一般に,症状に関連する認知は自動思考に相当するので,幻覚・妄想の認知療法では自動思考が治療の標的になると言えよう。一方,脆弱性(bio-psycho-social vulnerability)に関わるものとして,心理的次元では個々の患者に特有のスキーマがあげられるだろう。

統合失調症に非特異的なスキーマは,多くの人がしばしば潜在的な水準でもつスキーマと共通すると思われる。他方,統合失調症に特異的なスキーマは,直接的に症状形成と関連するのかもしれない。いずれにせよ,非機能的スキーマ(dysfunctional schemata)は初発時や再燃・再発時には活性化され,症状発現に至る悪循環の重要な要因になると予想される。

統合失調症に対する認知的介入

統合失調症に対する認知的介入は多様である2が,(1)基礎的情報処理に関わる機能欠損を標的とする“認知的リハビリテーション”,(2)残遺精神病症状の緩和と対処方略の向上をめざす“認知行動的介入”,(3)人生早期に形成された非機能的スキーマの再構成をはかる“スキーマ療法”などが知られている。

 統合失調症のスキーマ療法4では,「私には何の価値もない」,「愛されることがないのだから,人と交わることなど無意味だ」,「人は私を傷つけようとしているのだから,警戒を怠ってはいけない」,「ひきこもっていれば,私は傷つくこともない」などのスキーマが扱われる。

統合失調症に対する特異性の有無に関わりなく,治療上重要な非機能的スキーマは,精神病症状の発現時には活性化され「熱い」認知(“hot cognition)となっているため,その同定が容易になる。「熱い」スキーマは患者の愁訴に表現されたり,反復される行動から推測されるかもしれない。あるいは,対人行動課題を与えられたときの認知的・行動的リハーサルの過程で同定されうるだろう。

スキーマが想定できれば,これに対する介入が可能になる。当然のことながら,自動思考の修正に比べ,スキーマへの介入は簡単ではない。しかし,「鉄は熱いうちに打て」のことわざ通り,非機能的スキーマが現実の状況において顕在化するときをとらえて,これを同定・検証・修正(catch-check-correct)することができれば,スキーマの適正化が可能なはずである。

認知行動的治療環境

 認知行動的治療環境(cognitive-behavioral milieu,とは,とりわけ入院病棟やデイケア施設で認知行動療法を実施する場合に期待される概念である5。治療チームを構成する多職種のスタッフが,患者や家族と関わり,薬物療法や精神科リハビリテーションを行うとき,認知行動療法の理論と技法を主要な軸にすることである。共同的な精神(collaborative spirit)に満ちた治療環境と呼ぶこともできよう。

おわりに

臨床実践という観点からは,SSTと認知療法の差異性を強調するよりも相互補完性に着目することが生産的であり,患者の利益にも資すると考えられる。今後は,統合失調症に対するSSTを施行する過程で,個々の症例の概念化に応じて,積極的に認知療法の技法を加味することが期待される。


補遺

 患者A15年ほど前に発病し,幻覚妄想状態のために短期間の入退院を繰り返していたが,今回は幻聴が活発化し引きこもるようになり入院となった30代の女性である。SSTには,「人づきあいが上手になって,自立した生活ができるようになりたい」と希望し参加した。SSTに対する理解は良好で,集団への参加も円滑であった。

 ある日のセッションで,患者Aは「練習しているときはできるけど,実際に話をするのは,自信がないからできない」と話した。患者の愁訴を聞く過程で,「『なんでこの人,こんなこと言うんだろう』とか,『しようもないことを言うな』とか思われたら,どうしよう」,「私に話しかけられたら,相手は嫌な気持ちになったりするんじゃないか」といった非機能的認知を同定することができた。

 そこで,ロールプレイを用いて非機能的認知を修正することを試みた。

患者A:売店に行くのはどうすればいいですか?

患者B:真直ぐに行って,突き当たりを左に曲ってください。

 患者Aから道を尋ねられたときの感情や認知について確認したところ,患者Bからは「何か困っているのかな?」という答えが得られた。

 次に,立場を逆転したロールプレイを行った。

患者B:売店に行くのはどうすればいいですか?

患者A:真直ぐに行って,突き当たりを左に曲ってください。

 今度は,患者Bから道を尋ねられたときの患者Aの感情や認知について確認した。患者A をこう応じた。

 「自分が考えているようなことを他の人は考えていないようだ。」


文献

1. 井上和臣: 認知療法への招待(改訂3版). 金芳堂, 京都, 2002.

2. Inoue K, Kawabata S: Cognitive therapy for a major depressive episode in residual schizophrenia. Psychiatry and Clinical Neurosciences 53: 563-567, 1999.

3. 森内 幹, 川端茂雄, 川端正義, 仁木 繁, 井上和臣: 社会生活技能訓練が奏効した再燃と寛解を繰り返す慢性精神分裂病の1. 精神医学41: 89-91, 1999.

4. Perris C: Cognitive Therapy with Schizophrenic Patients. Guilford Press, New York, 1989.

5. Wright JH, Thase ME, Beck AT, Ludgate JW (eds.): Cognitive Therapy with Inpatients. Developing a Cognitive Milieu. Guilford Press, New York, 1993.