Y.新刊情報
「統合失調症の臨床心理学」
横田正夫・丹野義彦・石垣琢磨(編)
.東京大学出版会(2003).
\3,600
「エビデンスに基づく・・」というキャッチフレーズが医学・看護・保健福祉・心理学などさまざまな分野で本当によく耳にするようになった。本書も「Evidence Based」な統合失調症に対する臨床心理学の発展を目指し、まとめられた1冊である。
編著者は横田正夫氏(日本大学)、丹野義彦氏(東京大学)、石垣琢磨氏(横浜国大)、茨木博子氏(駒沢大学)、井村修氏(琉球大学)、皿田洋子氏(福岡大学)、杉山恵理子氏(四国学院大)、空井健三氏(中京大学)、松井三枝氏(富山医薬大)の以上9名で日本の臨床心理の最前線で活躍し、業績をあげておられる方々ばかりである。本書の中に「…日本の臨床心理士が共同して書いた統合失調症の研究書としては最初の本ではないかと思われる。…」という記述があり、その事実に非常に驚いたが、それにしてもこれだけの優れた心理分野の研究論文集は今後も頻繁に出版されるものではないだろう。それほど充実した読み応えのある内容になっている。
本書の内容は「集団的アプローチに基づいた実証的研究」と「個人データに基づいた実証的研究」に分けて構成されている。SSTに関しては第2章で取り上げられており、このニューズレター編集委員長でもある皿田洋子先生によって書かれている。SSTの理論的背景とその実際について事例を交えて述べつつ、SSTの効果や今後の展望など網羅的にかつ具体的にSST全般について触れられており、まだSSTをはじめたばかりの方でも十分理解できるように工夫されている。最も注目すべきは皿田先生自身のWAISを用いたSSTの効果研究についての論述であろう。欧米においては1980年代からSSTの効果研究は多く報告されているが、日本は未だにリハビリテーションは実学の色彩が強い。その中でWAISの各項目の改善傾向が証明された1992年のこの研究はわが国における最初のSSTの本格的効果研究であり、発表から10年以上経った現在も学ぶべき点の多い研究である。
また第5章には石垣琢磨先生の認知行動療法からのアプローチと題した論文がある。石垣先生は第8回学術集会の特別企画「統合失調症の認知療法」のなかで幻覚・妄想の認知療法をご講演下さっている。学術集会の内容を思い出しつつ、本書を読むことでより理解が深まるであろう。
このほか心理劇、集団療法からの統合失調症への介入研究、さらに描画研究、「心の理論」を用いた研究、そして心理物理学、記憶と神経心理学からの統合失調症へのアプローチと、まさに現場から最先端までの研究が一冊に凝縮されており実に贅沢な内容になっている。
本書は当然のことながら心理職の方を対象に想定して書かれたものであるが、その他の職種の方が読むことで心理職を理解する一助になると思われる。よって統合失調症の治療・援助に関わっている様々な職種の方に是非お読み頂きたい。
(自治医科大学精神医学教室 岩田和彦)