U・SST経験交流ワークショップin上越 特別講演Part2
認知療法と統合失調症(前号からの続き)
慶応義塾大学保健管理センター 大野 裕
薬物治療導入時のアプローチ
対応の実際(その1)
治療者:大体お話を伺ったんですが、うつだと思います。治療法にはいくつかありますが、まずはお薬を飲んでいただいたほうがいいと思います。
患者:お薬ですか・・・
治療者:お薬ということで、どのようなことを考えられましたか。
患者:ええ、副作用が心配だというのもあるんですが、それよりも薬を飲まなければいけなくなったということが気になって…。薬に頼らないといけないというのが情けないんです。自分が本当にだめな人間のように思えて。それなのに、薬を飲んで直るのかという気がします。
治療者:悲観的ですね。
患者:え?
治療者:だって、まだお薬を飲んでらっしゃらないのに、飲んで治るのだろうか、治らないんじゃないんだろうかって考えられたわけでしょう。これからのことでまだ分からないことを悪いほうに判断されているので、悲観的だなって考えたんです。
(「悲観的な考え」を話題にするときは患者(クライエント)の体験に近いものを取り上げる)
患者:すいません。
治療者:また悲観的に考えられました?
患者:ええ、先生のおっしゃることが当然だなって考えたらつらくなったんです。
治療者:つらくなったって言うのは?
(「否定的な思考」を明確にする)
患者:何でも悪いほうに考えて、せっかく先生が薬のことをおっしゃっていいただいているのに、失礼なことを言ってしまったって考えたんです。
治療者:それで、自分を責められた?
患者:ええ。
治療者:でも、それがうつの特徴なんです。悲観的に考えることや自分を責めることは症状なんです。最近そうしたことがよくあるんじゃないですか?
患者:ええ、そうなんですね。自分が弱いからこんな気持ちになっているのだと考えることがよくあります。他の人だって悩んでいる人はたくさんいるのに、私だけがひどく悩んでいるような気がして、弱い人間だと考えてしまうんです。その上、薬を飲まないといけないなんてと考えて。
治療者:そう考えるとどのような気持ちになりますか?
患者:ますますつらくなりました。
治療者:薬の話で、ますますつらさに輪を掛けたんですね。そのように悲観的に考えるとつらくなるものなんです。そうすると、本当は困った問題を解決しないといけないのに、いつの間にか自分を責めるようになってしまって、今おっしゃったように、私だけが弱い人間で、悩んでいると。
(「否定的な思考」と「感情」が関係していることに気づかせる)
患者:ええ。
治療者:でも、待合室にもたくさん患者さんがいらっしゃったでしょう。あなただけではなく。
患者:ええ、そうなんです。精神科の外来って、どのようなことろかと身構えて来たんですが、みな普通の人なんで安心しました。
治療者:そうなんですよ。想像だけだと、一体どのようなところなんだろうと心配になってきますが、実際にその場に行ってみると、そんなに心配するほどのことはないってわかって、安心することがよくあります。
(「現実」を見ると安心できることを実感してもらう)
患者:確かにそうです。あの、待合室に入ったときにそれまでの心配が少し軽くなったように感じました。
治療者:その感じ方を大切にされるといいでしょうね。うつの人は、悪い方悪い方に想像して、不安になったりつらくなったりし易いんです。そのとき今のように周りを見て気づいたことをちょっと思い出していただけるだけで、ずいぶん見えるものが変わってきます。気持ちも楽になってきます。そうした考え方についても、外来で一緒にお話していけるといいですね。
(「認知療法」の説明は患者の体験に沿って行う)
患者:はい。
治療者:それではお薬ですが、どうしましょう。
患者:ええ、お薬についても少し悲観的に考えすぎていたかも知れません。まず試してみたいと思います。
以上が薬をテーマとした対応です。
基本的には患者さんは薬や病気に対していろいろな考えを持っています。うつ病を例にとりましたがこれは統合失調症でも同じです。つまり、その事柄についてどう考えているのかの考えを患者さんに聞いていくのです。私たちにも言えることですが、現実とは違うことで、勝手に決め付けているようなことがよくあります。それを話してもらうことから始めますが、あまり急ぎすぎると、この例のように、治療者から責められてしまったと感じてしまうこともあります。従って、常に患者さんの反応を見ながらの対応ということになります。このような考え方をすることは症状の一つであることを伝えるわけですが、それを患者さんの体験に即して話していくことが大事です。また実際に行動をしてみると、考えていたことと違ったということもいろいろと体験されているわけですから、その体験を取り上げて話をしていきます。そして(今回のテーマの)薬の話につなげていくというプロセスをとります。
このようなことをやるときにいろいろなコラムを使ったりします。
例:ウルトラマンがバルタン星人と戦っていたが、3分の時間切れで撃退に失敗してしまう。ウルトラマンはショックを受けます。なんてダメなウルトラマンなんだ、国民のヒーローなのにもう終わりだと考えてしまいます。これに対して、仲間を呼ぼうとか1回失敗したくらいでダメとは決められない、ヒーローだって全能の神ではないんだ、また来週がある、なんて考えるとずいぶん楽になるわけです。
このように、状況(不快な感情を伴う出来事)、不快な感情、自動思考、合理的反応、結果、というように自分の気持ちを書き込んでもらいます。その際にその割合(%)も記入してもらいます。これは白黒ではなく、グレーゾーンがあることを認識してもらうためです。ここでは自動思考から、合理的反応へ進むところが難しいところですが、下記のようなやり方で進めます。
不合理で非適応なスキーマを探しだす
1、 自分に特有な個人的主題をさぐる
2、 自分に対する評価を振り返ってみる。
3、 強く心に残っている過去の記憶や、非常に気持ちが動揺した場面を拾い出し、共通点を探してみる
4、 考えの記録を利用する。
統合失調症の認知療法
統合失調症の認知療法に関しては、先ほど話したように、ここ3,4年注目をされているのですが、実際にはベックが1952年に論文を書いています。かなり丁寧なケースレポートがされていますが、実際の統合失調症への認知療法に関する効果研究というのは大体70年代の後半ぐらいから数例出てきました。それがだんだんと積み重なって90年代後半にはかなりの比較研究がされています。また最近では、「幻聴に対する認知」に関してかなり分厚い論文をベックが出しています。その中で、日本で導入されているもので私自身がとても面白いと思っているものを紹介します。
これはキングドン&ターキングトンという人が書いたもので、「正常類似体験・比較説明法」と訳されているものです。つまり、先ほどから出ているいわゆる異常体験というものは、私たちが日常で体験していることが行き過ぎたものであるというものです。(1969年にストラウスという人がWHOの研究を発表)例えば、いろいろなストレスが加わったとき、孤立をしたとき、疲れているときには一種の幻覚体験が出てくる、また薬など薬物が体内に入ったときにも同じようなことが起きてきます。つまり、このような正常からの流れの異常体験や、またいくら病識がないといっても患者さんはある程度の違和感を持っていて自分で「変だ」という体験をされていることが多いわけですが、そのような異常体験もあり、異常体験というものはとてもあいまいなものなのです。
そこで、いわゆる異常だと言われるものから少しずつ患者さんが現実を見られるようにしていくことをテーマとして治療をしていくことになります。とにかくなんでもやるというのではなく、むしろ患者さんの気分を改善して社会機能を改善していくためにどうすればいいかということに焦点を当てるべきだと(この本では)言っています。
もうひとつ大事なことはこれをやるには地域のサポートシステムが必要だということです。そういうものがあって初めて心理社会的なアプローチが可能であるというのです。その成果は、症状が軽くなるし、薬のコンプライアンス(きちんと飲む)が可能になり、その結果として、社会機能が改善することになるのだというわけです。
統合失調症の認知療法の進行マップ
では、これを実際にどのように進めていくのかですが、治療開始時にラポール(治療関係)を作っていきます。面接では現実にある問題を扱います。そして治療者は正確で、一貫性のある発言を心がけ、相手に調子を合わせ過ぎないようにします。つまり一貫性のある、あいまいな態度というものが必要なのです。たとえば妄想に対しては否定することもよくないし、かといって同調し過ぎるのもよくありません。それは患者さんがかえって不安になったり不信感を持ったりすることになるからです。これは昔から精神科の領域で言われていたことです。
患者さんと一緒に現実を見ていく態度が必要です。いろいろな角度から検討をしていって、その妄想の発祥はどういうところにあったのかについても話していきます。患者さんは何となく違和感や不安も持っているものです。ですから、決してこれは珍しいことではないということを話していく必要があります。たとえば原田先生は本(「正体不明の声」)の中に、「不安、孤立、過労、不眠などの要素があるといわゆる異常体験というものが出てくるのだ」と書いています。
もしかすると何かそのような要素(不安、孤立、過労など)があるかもしれないので、それを患者さんと一緒に見ていこうと提案するのです。それが見つかったら、患者さんは自分の症状を受け入れやすくなります。その場合も患者さんに負担になりそうになれば、引いてみることも必要です。面接はこうでなければならないというのでなく、患者さんのその時々の状態に出来るだけ合わせて、柔軟な面接を心がけることが大切です。
統合失調症に関しては面接時間は大体30分ぐらいだと書かれています。たとえ1回のセッションが体調その他の関係で5分、10分だったとしても継続的な関わりが必要です。そうした継続性は患者さんに安心感を与えることになります。そのようにして、この面接が役に立つという感覚を持ってもらうことが重要です。
なんか安心できないなとか、なんか退屈だなとかいうようなネガティブな気持ちがあると患者さんは治療を中断をし易くなります。面接内容も時間も、その患者さんの状態に合わせて調整をしていくことが大事になります。
さらに、精神病症状に対する心理教育もやっていきます。そうした症状が決して珍しいことではないということを患者さんに知っていただきます。眠れない時とか、周りとの関係が切れた時とかに起こりやすいし、特別な病気ではなく、ある種弱いところに、ストレスがタイミング悪くぶつかった時にこういう症状が出てくる(脆弱性ストレスモデル)ということを説明するわけです。また薬についても、このようなときには少し薬を飲むと楽になるだろうということも話します。もうこれでだめだ(破局視)というのではなく、いろいろな対応の仕方があるということを説明します。
★脆弱性モデルと悪循環(現実検討能力)
例えば、弱い部分にストレスがかかって、声が聞こえたとして、そのことを人に言うと、医者を受診させられて、そして精神科に送られて、閉じ込められる、そしてまたそれがストレスとなるというように悪循環でどんどん悪くなっていくということがあります。このような時には決して、孤立をさせるのではなく、社会との接点の中で治療をしていくことを考えていかなければなりません。ですから現実を見ていくことが大切になるのです。現実を見ながら、発病前に一体どのようなストレスがあったのかも見ていきます。そのストレスを解消することで少し問題が解消する場合もあるからです。そして、不安やうつ病がある場合はその治療も一緒にしていくことになります。
★幻聴に対する標準的な認知療法(現実検討能力)
幻聴に対する治療としては、いろいろな問い掛けをしていきます。たとえば、「他の人に聞こえないような声が聞こえますか?」「他の人には聞こえなくてあなただけに聞こえるというのは何か理由があるのでしょうか?」「他の人がうそをついているのでしょうか、それともあなただけに聞こえるように誰かが言っているのでしょうか?」「そんな方法があるとは思えないけれど、もしかすると、心の中にだけ聞こえるようなメカニズムがるのかもしれない、それはストレスがきっかけになっているのかもしれない、それを一緒に相談していきましょう。」というような語り掛けをしていきます。つまり、一般的な多くの人の体験との比較の中でその異常体験といわれるものを修正していくのです。
それでも症状が残ることがあるのですが、患者さんがその症状に対して考えていることだとか、それに対してどう対処をしているのかも聞いていきます。これについての研究もあります。例えば、私の患者さんで、教職についている人がいるのですが、声が聞こえるときはそれに負けない大きな声で話をすると教えることに集中できるそうです。また別の患者さんは声が聞こえるとテレビを見るという人もいます。このようにその対処についても一緒に話していって、その人が使っている対処法で有効なものをうまく伸ばしていきます。
そして、陰性症状(引きこもり等)にも働きかけていって(このあたりはかなりSST的になりますが)どういう活動ができるのかを考えていきます。この場合にも無理のないように心理教育的なことをやってフォローアップをしながら進めていくことになります。このようにいい治療関係を作りながら、現実を一緒に見ていくこと、以上が統合失調症の認知療法の全体的な流れです。
ここで、現在私が相談に乗っている学生の症例を簡単に紹介します。
23歳男子学生で、行きかう人が自分を睨んでるというのが1年ぐらい前から続いていました。最近はそれがひどくなってきたというものです。最初はグラブの先輩が自分のやったことに対して怒っているのではないかと思った。次にゼミの仲間がみな睨んでいるということに気づいた、しばらくするとキャンパスで行き会う人たちやクラスの人たちがみな自分を睨んだり笑ったりしていると感じるようになったというのです。このような状況なのでごく限られた人にしか相談できない。そのごく限られた友人がまず私のところに相談に来て、本人と会うことになりました。
今私がやっている方法は、その学生の目の前で紙に書きながら話を聞いていきます。エピソードとして、彼は友達と3人で映画に行ったそうなんです。そしたらその友達が自分のことをいろいろ聞くと言うんです。何でそんなに自分の生活のことを聞くのだろうか、そんなに自分のことをそんなに知りたいのだろうか、みな自分に関心を持っているみたいである。行きかう人が自分のことを見るのもだからかもしれない。自分の顔を知らないはずなのに、みなが自分を見るのは、ホームページに自分の顔が出ているのではないか・・・・と考えたというのです。このようにどんどん妄想が発展をしていくわけです。
そこで、私は彼が言ったことを紙に書いて、ひとつひとつ、本当にそういうことがあるのだろうかというような問いかけをしていきます。そして、彼が考えすぎているような発言とか悪いほうに考えているようなことを、私は意識的に四角で囲んで見せたりして、少し意識をしてもらいます。このように書いていくことで一緒に現実を見ていく、紙の上で彼の偏った方向の重み付けを変えていくような治療をやっています。また薬についてもいろいろと取り上げて、彼が薬を受け入れてのみ易いように話をして薬に導入していきます。彼の場合は3回目くらいにやっと薬を飲んでみようということになりました。
こうして、彼の拡大していく体験を、現実的なところへ変えていくことをやりながら、具体的な行動へと結びつけて、適応を助けていきます。
以上、今日は認知療法の立場から、うつ病や不安障害の認知について話をしてきました。それはものの考え方とか受け取り方次第でうつ的になったり不安になったりするということで、それを問題解決の方向へ変えていくことが大事であるということ、そしてそれは統合失調症でも同じであるという話をしました。