−SSTの効果って何だろう?−
             (第12回)
自治医科大学 精神医学教室 岩田 和彦
 
 
「○○さんは、SSTに参加していたときは自分の意見を言えていたが、SSTが終わったら以前のように自分の意見を言えなくなった…」という話を時々耳にします。SSTなどの心理社会的治療の効果がどの程度持続するのか?は実施するスタッフにとって大きな関心事のひとつです。今回は、以前紹介したNicholas Tarrierらの認知行動療法の効果研究(1998)を再掲し、さらにその効果を12ヶ月間追跡した研究(1999)を紹介します。
Randomised controlled trial of intensive cognitive behaviour for patients
with chronic schizophrenia.
    Tarrier N,Yusupoff L,Kinney C,et al
                     BMJ 1998 Aug 1;317:303-7
(目 的)慢性精神分裂病患者に対する集中的な認知行動療法(CBT)と日常的ケア(RC)の組合せは支持的カウンセリング(SC)と日常的ケアを併用した場合や日常的ケアのみの場合よりも優れているか?
(対 象)英国マンチェスターの精神科外来クリニックに通院しており、DSM-?-Rで分裂病、分裂感情障害、妄想性障害と診断され、幻覚妄想が6ヶ月以上継続し、一定の薬物療法を受け、担当医から研究参加を許可された18歳〜65歳の患者87名を対象とした。最終的に72名(83%)の患者が治療を完了した。
(治療法)症状の程度と性別により患者を区分し、集中的なCBTとRC(33人)、SCとRC(26人)、RCのみ(28人)の各群に無作為に割り付けた。CBTの内容には問題対処法の強化、問題解決トレーニング、再発リスクの軽減のための方策が含まれていた。SCの目的は相互理解と無条件の配慮を育む人間関係を形成することである。RCとして、薬物療法および外来診療を含む標準的な精神科ケアが実施された。
(結 果)臨床症状の発現数・重症度、臨床的改善度(症状改善度50%以上)、症状の再発、再入院が評価された。CBT群において症状の発現数・重症度はともに治療開始時の基準線を下回るデータが示された。CBT群における数値はSC群の患者大きく減少した。RCのみの場合症状の発現数・重症度は僅かながら増大した。臨床データの改善が認められた患者数はCBT群では、他の2群をあわせた患者数よりも有意に多かった。RCのみを受けた患者4名(14%)に症状の再発が認められたのに対し、CBTおよびSCの両群に症状を再発したものはいなかった。またRC群の総入院日数が204日であったの対し、CBTおよびSCの両群では各1日にとどまった。
(結 論)認知行動療法と日常的ケアを組み合わせることで、日常的ケアのみの場合より慢性精神分裂病の症状はかなり改善された。認知行動療法による症状の改善度は支持的カウンセリングよりも高かった。
 
Durability of the effects of cognitive-behavioural therapy in the treatmen of chronic schizophrenia : 12-month follow up
   Tarrier N, Wittkowski A, Kinney C,et al
Br J Psychiatry 1999 ; 174 : 500-504
(目 的)持続性の薬物療法抵抗性の精神病症状は統合失調症の治療において深刻な問題のひとつである。
そこで慢性統合失調症患者に対する認知行動療法(CBT)の効果が治療終了後一年間でどの程度持続しているかを評価した。
(方 法)認知行動療法(CBT)と支持的カウンセリング(SC)と日常的ケアのみ(RC)の3群におけるランダム化比較臨床研究から、1年後に臨床的アウトカムを比較した。
(結 果)治療を完了した72人のうち70人(97%)が追跡時点で評価された。陽性症状・陰性症状についてはANCOVAによって解析され、3群間に有意な差が認められた。
各群の間の比較において認知行動療法群(CBT)と日常的ケアのみ群(RC)の間に、1年間追跡時点で陽性症状において有意な差が認められた。さらに認知行動療法群(CBT)と支持的カウンセリング群(SC)は日常的ケアのみ群(RC)よりも陰性症状においてはより大きい改善を維持している傾向が認められた。
(結 論)認知行動療法は日常的ケアのみの場合と比較して、治療終了後12ヵ月後もその効果が有意に維持されている。
 
【コメント】
今回紹介した研究はTarrierらのマンチェスタートライアルと呼ばれている認知行動療法の効果研究とその追跡研究です。認知行動療法群では(1)精神症状に対する対処技法、(2)問題解決技能訓練、(3)再発防止の方略の3つの分野に焦点をあて、各分野6セッションとまとめの2セッションの計20セッションを週2回のペースで延べ10週間にわたり実施しています。(各セッションの詳細は Tarrier N,et al: A trial of two cognitive behavioural methods of treating drug-resistant residual psychotic symptoms in schizophrenic patients:1. Outcome. Br J Psychiatry, 162: 524-532,1993 の文献を参照してください。)
追跡研究では12ヵ月後の臨床的アウトカムとして(A)陽性症状の重症度をPSE(Present State Examination)とBPRSを用いて評価し、(B)陰性症状の重症度をSANS(Scale for Assessment of Negative Symptoms)で評価し、さらに(C)再発・再入院率の全3項目から認知行動療法の効果の維持を検討しています。
一般に認知行動療法は薬物療法と併用することで陽性症状の改善が認められるという報告(Tarrierら(1993)、 Garetyら(1994)、Druryら(1996)、Kuipersら(1997)など)はこれまでに多く報告されていますが、陰性症状に対する効果は少ないといわれています。
今回紹介した追跡研究では、陽性症状・陰性症状の評価スケールによるスコアの平均値として以下のデータが示されました。
 
         認知行動療法群  支持的カウンセリング群  日常的ケアのみ群
 
陽性症状
  介入前     15.73      18.32       16.26 
  介入後     10.67      15.81       15.65
  1年追跡時    10.59      16.30       17.63
陰性症状
  介入前     12.13      11.52       11.00
介入後      9.83      10.19       10.73
1年追跡時    10.39       9.90       11.46
 
なお再発・再入院率は追跡時点において、CBT群6/23(26%)、SC群4/21(19%)、RC群7/26(27%)と各群間に有意な差は認められなかったと報告されており、再発防止効果は証明されませんでした。陽性症状に対する効果が1年以上持続する可能性が示唆されたことは意義深いことであり、今後わが国でも薬物療法に認知行動療法が積極的に併用されるようになることを期待したところです。