V・第6回SSTアンケート調査報告 〜国際精神学会の発表から〜
国立精神・神経センター 精神保健研究所 安西 信雄・佐藤さやか
わが国におけるSSTの実施状況の調査はSSTニューズレター1巻1号(1989年10月発行)に掲載された第1回アンケートから始まった。その時点で17施設で実施されていることが明らかにされた。1993年に報告された第4回アンケートでは実施施設は132施設となり、翌年(1994年)4月に入院生活技能訓練療法が精神科専門療法に組み入れられ、診療報酬化が実現した。1995年2月のSST普及協会の発足を経て、診療報酬化の後のSSTの普及状況と課題を調査するためSSTニューズレター編集委員の角谷慶子運営委員により1996年に第5回アンケートが実施された。その結果はSSTニューズレター8巻1号(2-10頁)、8巻2号(2-7頁)、SST普及協会編「SSTの進歩」(創造出版, 1998年, 209-215頁)に掲載された。回答が得られたSST実施179施設の回答を中心に詳細な分析が行われた。第5回アンケートの概要は次のようであった。
179施設のうち入院が60%をしめ、デイケア38%、外来13%などを大きく引き離しており、SSTの従事スタッフは看護師が62%をしめ、臨床心理士47%、ソーシャルワーカー40%、医師37%、作業療法士26%の順であった(複数回答あり)。これらは入院生活技能訓練療法の診療報酬化により、入院施設でSSTの普及が促進されたことを反映しているものと考察された。一方で、入院施設108のうち診療報酬請求をしていたのは87施設(81%)で、その内訳は、入院生活技能訓練療法での請求は72%で、作業療法21%、集団精神療法6%であり、SSTを実施していても診療報酬請求ができていない施設が相当数あること、またSSTの診療報酬点数が低いために他の診療報酬で請求されている(SSTが水面下にもぐる)という問題点が示された。
第6回アンケートは2002年8月に実施された。その目的は、前回のアンケート後、6年余が経過しているので、その間の変化を量的・質的の両面から把握し、わが国のSST普及の到達点を明らかにすると同時に、今後の発展のための課題を明らかにすることであった。
第6回SSTアンケートは会員名簿改訂のためのアンケートに同封して個人会員1,353人、賛助会員201施設(合計1,554)に郵送された。8月25日に開催された第12回世界精神医学会(WPA2002横浜)におけるSSTワークショップで「わが国におけるSSTの実施状況」として報告する予定があったので、8月6日に発送して8月22日までに回答をお願いした。わずか2週間のうちに646通の回答をいただいた。個人会員からの回答が中心であったので、すべて個人会員からの回答と仮定して回答率を求めると47.8%の回答率となる。短期間の間にご回答いただいた会員諸氏に改めて感謝を申し上げたい。
646回答の中には同一施設からの複数の会員からの回答も含まれていた。これらの同一施設からの回答については、それぞれの回答を検討のうえ、1施設ごとの回答にまとめて集計を行った。
集計結果は、(1)SST実施施設数の推移、(2)第5回アンケートとの比較、(3)第6回アンケートについて病院と病院以外の施設の比較の3つに分けて報告する。今回は(1)と(2)を報告し、(3)については別の機会に報告したい。
第1項SST実施施設数の推移(図1)
646回答から求めたSST実施施設数は361施設で、その内訳は病院が185施設、病院以外は111施設であった。病院以外でのSST実施施設は多い順に、大学(18)、クリニック(13)、精神保健福祉センター(12)、デイケア(8)、作業所(8)であった。
第5回SSTアンケートでは実施施設数は242であったので、その後の6年に約120施設が増えたことになる。上記のように1994年に診療報酬化が実現したが、これは「入院生活技能訓練療法」であり、外来やデイケアの患者には適用されず、入院患者のみが対象とされた。そこで診療報酬化以後のSST普及状況について、病院と病院以外を比較した。
これらの361施設のうち、65施設はSST開始年の記載がなかったので、これらの施設を除き、開始年の記載があった296施設について、開始年ごとに集計してSST実施施設数の推移を求めた(図1)。図は上下の2層に分かれているが、下の層は入院施設で、上の層は入院以外の施設である。図から94年以降の増加が著しいこと、入院施設でのSST実施施設の増加が明らかであるが、入院以外の施設でも増加してきていることが分かる。これにより近年のSST実施施設数の増加は、入院生活技能訓練療法の診療報酬化の影響は大きいが、それ以外の要因も関与していることが示唆された。
第2項第5回アンケートと第6回アンケートの比較(表1)
第6回アンケートは第5回アンケートとの比較が可能なように、ほぼ同一の調査項目により構成されていた。以下、SST実施施設について、第5回アンケートの179施設と第6回アンケートの361施設を比較して検討を行った。たとえば、治療形態について、1施設で入院とデイケアでそれぞれSSTが実施されているなど、重複回答のあるものについては、回答の%の合計が100を超えるものもあることに注意をお願いしたい。
1 SST実施施設の治療形態
SST実施施設の治療形態について
第5回(1996年)と第6回(2002年)を比較したものが表1である。
入院についての比率が60.3%から64.5%に高まっていたが、デイケアについても若干の増加が見られた。外来については約13%で、変化はなかった。
2002年におけるSST実施施設は、入院(64.5%)、デイケア(41.0%)、外来(12.7%)の順であった。
| 表1 SST実施施設の治療形態(重複回答あり) |
| 治療形態 |
1996年 |
2002年 |
|
施設数 |
% |
施設数 |
% |
| 入院 |
108 |
60.3 |
233 |
64.5 |
| デイケア |
68 |
38.0 |
148 |
41.0 |
| 外来 |
23 |
12.8 |
46 |
12.7 |
| 作業所 |
12 |
6.7 |
15 |
4.2 |
| 家族会 |
11 |
6.1 |
− |
− |
| 援護寮 |
3 |
1.7 |
4 |
1.1 |
| 授産施設 |
2 |
1.1 |
5 |
1.4 |
| グループホーム |
2 |
1.1 |
3 |
0.8 |
| 福祉ホーム |
1 |
0.6 |
2 |
0.6 |
| 更生施設 |
- |
- |
7 |
2.0 |
| その他 |
12 |
6.7 |
- |
- |
| 計(回答施設数) |
242 |
100.0 |
361 |
100.0 |
| ★02年も96年とほぼ同様に入院がもっとも多く、デイケアがそれに次ぐ(なお「更生施設」には「保護観察所」を含む) |
2 SST従事スタッフ(表2)
SST従事スタッフを専門(職種)別に見ると、両年とも看護師がもっとも多く、2002年ではその比率が高まっていた。また、ソーシャルワーカーの比率が高まる傾向があった。2002年における従事スタッフの比率は、多い順に看護師、ソーシャルワーカー、臨床心理士、作業療法士、医師、保健師の順であった。
| 表2 従事スタッフ(重複回答あり) |
| 職種 |
1996年 |
2002年 |
|
人数 |
% |
人数 |
% |
| 看護師 |
111 |
62.0 |
257 |
71.2 |
| ソーシャルワーカー |
71 |
39.7 |
153 |
42.4 |
| 臨床心理士 |
84 |
46.9 |
146 |
40.4 |
| 作業療法士 |
46 |
25.7 |
86 |
23.8 |
| 医師 |
67 |
37.4 |
79 |
21.9 |
| 保健師 |
20 |
11.2 |
15 |
4.2 |
| その他 |
33 |
18.4 |
− |
− |
| 回答施設数 |
179 |
100.0 |
361 |
100.0 |
| ★看護師の比率が増大。ついでソーシャルワーカーが増える傾向あり。 |
3 診療報酬請求の有無(表3)
診療報酬請求を実施している施設は、1996年には48.6%であったが、2002年は62.3%で、請求を実施している施設の率が高まっていた。
| 表3 診療報酬請求の有無 |
| 診療報酬請求の実施 |
1996年 |
2002年 |
|
施設数 |
% |
施設数 |
% |
| している |
87 |
48.6 |
225 |
62.3 |
| していない |
82 |
45.8 |
115 |
31.9 |
| 無回答 |
10 |
5.6 |
21 |
5.8 |
| 回答施設数 |
179 |
100.0 |
361 |
100.0 |
| ★96年より02年の方が診療報酬請求ありが多い |
4 診療報酬請求の内訳(表4)
入院生活技能訓練療法を請求している施設が1996年の72.4%から2002年には80.9%に増加していた。作業療法による請求は20.7%から8.9%に減少していたが、集団精神療法による請求が5.7%から16.0%に増えており、SSTを実施していても他の診療報酬で請求している場合が引き続き一定数あることが示された。
| 表4 診療報酬請求の内訳(重複あり) |
| 診療報酬 |
1996年 |
2002年 |
|
施設数 |
% |
施設数 |
% |
| 入院SST |
63 |
72.4 |
182 |
80.9 |
| 作業療法 |
18 |
20.7 |
20 |
8.9 |
| 集団精神療法 |
5 |
5.7 |
36 |
16.0 |
| 不明 |
1 |
1.1 |
|
|
| 回答施設数 |
87 |
|
225 |
|
| ★入院SSTの請求が多いが集団精神療法もかなりある |
5 診療報酬を請求していない理由
入院生活技能訓練療法の診療報酬請求をしていない施設について、その理由をたずねた。請求できない理由は、医療機関でない、デイケアや外来など入院施設でないという理由が多かったが、スタッフを確保できないものが約10%見られた。
| 表5 診療報酬非請求の理由(重複回答あり) |
| 非請求理由 |
1996年 |
2002年 |
|
施設数 |
% |
施設数 |
% |
| 医療機関でない |
35 |
42.7 |
40 |
34.8 |
| 対象外(DC含む) |
27 |
32.9 |
34 |
29.6 |
| スタッフを確保できない |
6 |
7.3 |
12 |
10.4 |
| 準備中 |
6 |
7.3 |
5 |
4.3 |
| 不明 |
8 |
9.8 |
|
|
| 回答施設数 |
82 |
|
115 |
|
| ★請求できない理由はほぼ同じで、医療機関でない、入院でないが多い。スタッフが確保できないも約10%あり。 |
6 SSTの対象者(診断別)(表6)
両年とも統合失調症が約9割でもっとも多かったが、2002年は1996年と比べて他の疾患が増加する傾向が見られた。気分障害、神経症や薬物依存などで増加していた。
近年学校教育や更生施設等でのSSTの適用が注目されているが、今回のアンケートの範囲では、不登校が若干増加していたが、そうした傾向は明らかでなかった。
| 表6 SSTの対象(重複回答あり) |
| 診断 |
1996年 |
2002年 |
|
施設数 |
% |
施設数 |
% |
| 統合失調症 |
161 |
89.9 |
323 |
89.5 |
| 気分障害 |
48 |
26.8 |
138 |
38.2 |
| 神経症 |
42 |
23.5 |
102 |
28.3 |
| 精神遅滞 |
35 |
19.6 |
88 |
24.4 |
| 人格障害 |
31 |
17.3 |
74 |
20.5 |
| 薬物依存 |
19 |
10.6 |
74 |
20.5 |
| 家族 |
14 |
7.8 |
26 |
7.2 |
| 痴呆 |
3 |
1.7 |
26 |
7.2 |
| 不登校 |
3 |
1.7 |
11 |
3.0 |
| 非行 |
2 |
1.1 |
7 |
1.9 |
| その他 |
12 |
6.7 |
|
|
| 計 |
179 |
|
361 |
|
| ★統合失調症がもっとも多いが、他の疾患も増えている(ex.気分障害、神経症、人格障害、薬物依存) |
7 SSTの実施内容(表7)
SSTの実施内容は、基本訓練モデルが両年とも8割〜9割の施設で実施されており、主として基本訓練モデルが実施されていることが示された。1996年と比較して2002年では、問題解決技能訓練、服薬自己管理や症状自己管理、基本会話、余暇のモジュールが増加していた。1996年時点では地域生活への再参加プログラムは利用できなかったが、2002年には42施設(11.6%)で実施されていた。このようにSSTの実施方法が多様化しつつあることが示された。
| 表7 SSTの実施内容(重複回答あり) |
| 実施内容 |
1996年 |
2002年 |
|
施設数 |
% |
施設数 |
% |
| 基本訓練モデル |
161 |
89.9 |
277 |
76.7 |
| 問題解決技能訓練 |
78 |
43.6 |
200 |
55.4 |
| モジュール・服薬 |
30 |
16.8 |
81 |
22.4 |
| モジュール・症状 |
6 |
3.4 |
54 |
15.0 |
| モジュール・会話 |
19 |
10.6 |
127 |
35.2 |
| モジュール・余暇 |
2 |
1.1 |
61 |
16.9 |
| 地域生活への再参加 |
|
|
42 |
11.6 |
| 家族へのSST |
|
|
15 |
4.2 |
| 計(回答数) |
179 |
|
351 |
|
| ★基本訓練モデルが中心だが、問題解決や各種のモジュールも増加の傾向 |
8 SSTの実施時間(表8)
各施設における1回当たりのSST実施時間を両年で比較した。1996年、2002年ともに1回1時間が60%を超え、これがもっとも多かった。ついで1時間半の施設が1996年は21.8%、2002年は13.3%に見られた。
| 表8 SSTの実施時間 |
| 1回の時間 |
1996年 |
2002年 |
|
施設数 |
% |
施設数 |
% |
| 0.5 |
1 |
0.6 |
4 |
1.1 |
| 0.8 |
1 |
0.6 |
4 |
1.1 |
| 1 |
111 |
62.0 |
239 |
66.2 |
| 1.2 |
1 |
0.6 |
6 |
1.7 |
| 1.5 |
39 |
21.8 |
48 |
13.3 |
| 2 |
16 |
8.9 |
25 |
6.9 |
| 2.5 |
1 |
0.6 |
0 |
0.0 |
| 3 |
1 |
0.6 |
0 |
0.0 |
| 4 |
1 |
0.6 |
1 |
0.3 |
| 不明 |
7 |
3.9 |
34 |
9.4 |
| 回答施設数 |
179 |
|
361 |
|
| ★1回の時間は1時間の施設が両年とも、もっとも多い。 |
9 SSTの実施頻度(表9)
SSTの実施頻度は1996年には週1回が72.1%、2週に1回が10.1%であったが、2002年には週1回が80.1%に増え、2週に1回が3.9%に減っていた。
なお、週2回以上の回答については、一部に週5〜7回という回答も見られるので、1患者当たりの実施回数でなく、1施設で週何回実施しているかという回答も含まれている可能性が考えられた。
| 表9 SSTの実施頻度 |
| 週あたりの回数 |
1996年 |
2002年 |
|
施設数 |
% |
施設数 |
% |
| 10週に1回 |
1 |
0.6 |
1 |
0.3 |
| 4週に1回 |
5 |
2.8 |
6 |
1.7 |
| 2週に1回 |
18 |
10.1 |
14 |
3.9 |
| 1週に1回 |
129 |
72.1 |
289 |
80.1 |
| 2回 |
10 |
5.6 |
7 |
1.9 |
| 3回 |
2 |
1.1 |
1 |
0.3 |
| 4回 |
5 |
2.8 |
3 |
0.8 |
| 5回 |
1 |
0.6 |
1 |
0.3 |
| 7回 |
1 |
0.6 |
1 |
0.3 |
| 不明 |
6 |
3.4 |
38 |
10.5 |
| 回答施設数 |
179 |
|
361 |
|
| ★週に1回が大部分 |
10 SST非実施施設が実施していない理由(表10)
SSTを実施していない施設に非実施の理由を回答していただいた。1996年、2002年ともに、もっとも多かったのは「スタッフが確保できない」であった。2002年では、それにつづいて、「SSTの対象になる患者がいない」「セッションの時間を確保できない」が多かった。
| 表10 SST非実施施設が実施していない理由(重複回答あり) |
| 非実施の理由 |
1996年 |
2002年 |
|
施設数 |
% |
施設数 |
% |
| SSTの効果に疑問をもつ |
2 |
2.4 |
0 |
0.0 |
| SSTの技法は自分に合わない |
1 |
1.2 |
1 |
0.8 |
| SSTの対象になる患者がいない |
7 |
8.3 |
19 |
17.4 |
| セッションの時間を確保できない |
25 |
29.8 |
17 |
15.6 |
| 場所や物品を確保できない |
16 |
19.0 |
11 |
10.1 |
| 管理職が理解を示さない |
5 |
6.0 |
6 |
5.5 |
| 診療報酬が得られない |
2 |
2.4 |
7 |
6.4 |
| スタッフを確保できない |
34 |
40.5 |
36 |
33.0 |
| 計(回答数) |
84 |
|
109 |
|
| ★スタッフを確保できない、時間がないが多い。対象になる患者がいないについては、実態はどうなのだろうか。 |
第3項まとめ
SST実施施設数の推移については、@SST実施施設数は6年前の179施設から今回調査では361施設に増加し、A入院施設での増加だけでなくデイケア等の入院以外の施設でも増加していた。
第5回アンケート(1996年)と今回の第6回(2002年)のアンケートを比較したところ、@SST従事者について看護師やソーシャルワーカーの比率が高まっていた。A対象疾患は統合失調症患者が多かったが、気分障害や神経症、人格障害、薬物依存等への適応の拡大の傾向が見られた。BSSTの実施内容は引き続き基本訓練モデルが中心であったが、基本会話や服薬、症状自己管理、地域生活への再参加プログラム等のモジュールの普及の傾向が認められた。C実施時間は1時間が多く、週1回実施されているものが多かった。D診療報酬請求をしている施設の比率が若干増加していたが、非請求施設では入院施設でない(デイケアや外来等)、スタッフを確保できないなどの理由があげられていた。ESSTの非実施施設では、スタッフが確保できないなどの理由があげられていた。
これらによりSSTの対象の拡大と技法の多様化の傾向が示されたが、その実現のためには高い技量を持つスタッフの養成と確保が必須と考えられるので、研修の充実と診療報酬の拡充が必要と考えられた。
病院と病院以外の施設におけるSST実施状況の比較については別の機会に報告したい。