−SSTの効果って何だろう?−
             (第11回)
自治医科大学 精神医学教室 岩田 和彦
 
 

さて、これまで10回にわたってEvidence based Medicine(EBM)について解説しつつ、SSTやその他の精神科リハビリテーションの効果研究を紹介してきました。EBMの解説は前回で一区切りとなります。今後はできる限りたくさんの研究報告を海外・国内から集め、みなさんに紹介していこうと思います。
今回はPsychiatric Serviceという雑誌に掲載されていた論文を紹介します。モジュールのひとつである「地域生活への再参加プログラム(The community re-entry program:  CREP)」の効果を報告した研究です。
Teaching psychiatric inpatients to re-enter the community : a brief method of
   improving the continuity of care
                    Kopelowicz A, Wallace CJ, Zarate R
                   Psychiatric Service 49,1313-1316,1998

【目的】 この研究では、精神障害者に地域生活への再参加に必要なスキルを教示し、その
   後自分自身で疾病の自己管理ができるようになることを目的としたプログラム(地域生
   活への再参加プログラム)の効果を評価することを目的とする。
【対象】 UCLAの関連病院に入院中の患者の中から、診断がDSM-Wで統合失調症または
   分裂感情障害の59人(男性42人・女性17人、平均年齢35歳、平均罹病期間12年)を対
   象とした。
【方法】 対象者59人をランダムに2群に分け、一方は地域生活への再参加プログラムによる
   介入を行う群、他方は同様の介入頻度で積極的な作業療法に導入した。地域生活へ
   の再参加プログラム群は6−8人を1グループとし、週4日、午前と午後の1日2回、1回45
   分のセッションを行った。
    スタッフはOT・Ns・PSW・Dr・CPなど多職種で構成された。作業療法は通常の治
   療を3人の作業療法士で行った。
   効果は病院を退院後、その月に受けたアフターケアサービスの記録を用いて評価し 
   た。地域生活への再参加プログラムの中で教示される特定の項目に関する知識度や
   技能獲得についてのテストは、介入の前後で実施された。
【結果】 介入後の評価で、地域生活への再参加プログラム群はそのセッションの中で教示さ
   れた知識度テストや社会的行動が、行動療法群に比べ有意に改善していた。 また退
   院後の通院遵守率が地域生活への再参加プログラム群は有意に高かった。(退院後
   最初の予約遵守率:地域生活への再参加プログラム群85%・コントロール群37%)
【結論】 統合失調症患者において、急性期であるにもかかわらず、短期間の入院の間にあ
   る程度複合的な課題を学習することが可能であっただけでなく、高度に構造化された
   治療プログラムによって、短期間に地域生活上必要な技能の有意義な改善も認められ
   た。地域生活への再参加プログラムは、時間やスタッフに限りがあるような入院治療に
   おいても、十分に導入しうるものであると思われる。
 
Training hospitalized patients with schizophrenia in community reintegration skills
                Smith TE, Hull JW, MacKain SJ et al
                Psychiatric Service 47,1099-1103,1996

【目的】
この研究では、入院患者を地域生活に結びつけることを目的に考案された、短期間のモジュールである「地域生活への再参加プログラム」の効果を調べることを目的とする。
【対象】
84人の慢性精神障害者が入院している病棟から、対象者を抽出した。病棟の 構成は、男女比が男性43人・女性41人、平均年齢33.9歳、平均総入院期間7.9年、診断はDSM-Wで55%が統合失調症、25%が分裂感情障害、15%が感情障害、5%が特定不能の精神病性障害である。
今回はこの中から44人を地域生活への再参加プログラムに導入した。
【方法】
地域生活への再参加プログラムは全16回の小グループによるセッションからなり、退院準備のために必要な技能、精神症状の管理や服薬の効果、退院の計画の援助などを実施するものである。
今回の研究では、プログラムを、4-5人のグループで平日の週5日、1セッション60分として行った。アセスメントとして、主治医によって陽性症状はSAPS、陰性症状はSANSを用いて精神症状が評価され、知識と技能獲得に関してはプログラムに付いている評価テストを用いて、導入時とセッション終了時に評価を行った。
一部の対象者は退院後2週間の時点でのフォローアップの評価を行った。
【結果】
地域生活への再参加プログラムによって、入院時から退院時にかけて陽性症状、陰性症状ともに改善し、生活技能は有意に向上していた。地域生活への 再参加プログラムによる介入後の生活技能のレベルは、介入前の生活技能のレベルや、セッションへの参加度と関連していた。対象者の精神症状のレベルは、セッションへの参加度や生活技能の獲得度とは関連していなかった。退院時の生活技能のレベルは、精神症状の重症度よりも、退院後2週目の地域生活への適応度と深く関連していた。
【結論】
地域生活への再参加プログラムの効果を完全に確立するためには、今後さらなる比較研究が必要であるが、今回のデータから、短期間の目標が明確化されたスキルトレーニングは、慢性期の精神疾患をもつ入院患者にとって、薬物療法との統合的治療において、効果を増大させる重要な役割を果たすと考えられる。