ここにお集まりの方は、精神科関係の方ばかりでないことは承知しているのですが、今、私どもの最大の関心事は、長期入院患者さんをどう社会復帰させるかそういったことにありますので、そうしたことを皆さんと一緒に考えたいと思うのです。おそらくSSTの出番というのが、この長期入院患者さんを退院にもっていくその時にあるのだと考えます。皆さんご存知のように日本の精神科医療のこれまでの負の遺産が蓄積されて、世界では類をみないような長期入院、あるいは病院の数、そういったことが病床数の多さに表れているのです。WHOのサーラチェーノさんが去年やってきて、「日本の精神科病院の活動を地域に展開しなさい。スタッフの方も病棟から地域に出るようにしなさい。大学の研究もあまりに生物学的すぎるので、社会的な精神医学を発展させたらどうですか。」こういった勧告をしたのです。同時に厚生労働省は、向こう5年間の間に現在入院患者総数の5%、7万2千人の患者さんを社会復帰の方向へもっていこうとしています。その中身はまだ十分わかりませんが、慢性の患者さんたちが社会の中で生活するにはどうしたらいいだろう。そんなことを今日考えてみたいと思うのです。長期入院患者の障害というのを考えてみますと、精神症状が残存し、陽性症状とか、根強い陰性症状があるのです。それだけではありませんで社会性の障害があり、これは対人接触や役割行動に欠けるのです。また、認知障害というのが最近言われるようになりましたけど、こうしたことが悪循環をして、非常に孤立した自閉的な生活を送っていらっしゃるのです。その上、特に長期入院の患者さんは、薬の高用量、多剤併用、あるいは長期連用によって錐体外路症状の間に、さらに肥満や、水中毒も起きている方が少なくありません。また、家族の支援能力も弱体化していて、多くの障害が重なりあっているのです。その上、入院しているからと言って、社会復帰活動が個人のレベルにまで浸透しているとは言えなくて、施設因性、あるいは医原性の病態そういうものが加わっているというふうに思えるのです。こういう方たちを世の中にどのように復帰していただくかを、それを考えてみたいと思うのです。まず、このSSTに私は期待したいと思うのですが、4年前に私は大学を定年でやめましたけど、私が社会復帰する前にこの退院困難な患者さんをいかにして社会復帰にもちこむか、そういったことを定年になる前5〜6年間取り組んだことを今振り返って、参考にしていただきたいと思うのです。どういうことをしたかと申しますと、受け持ちの看護師と他に2〜3人で組んでもらって、毎日ベットサイドに椅子をもっていき20分間面接していただいたのです。私の考えで面接の仕方のマニュアルを作り、決まった時間に面接してもらったのです。第一段階は毎日20分で、2〜3週間これを続けます。その時、視線をあわせて傾聴する、これはSSTの基本ですね、それから質問するときは、まずその時患者さんが話題にしたこと、身体の調子、食欲、日常生活行動、こういったことに関心を示し、患者さんの言っていることが現実離れしていても批判したり、否定したりしないで聴く。もちろん、その面接に入る前にインフォームドコンセントを行ってやったわけですが、このようなことをやり続けるには、担当する看護師を支えることを考えなければいけない。面接をするときに看護師自身が心的にいろいろな経験をするだろうと予想されることはちゃんとマニュアルに書いてありますが、私は一週間に一度この治療をやっているすべての職種の人との間で全体の集会、いわばスーパービジョンを行いました。2〜3週間続けて面接をしていますと、変化が起こってきます。その変化はだいたい予想されるのですが、慢性の患者さんではありますが、たいていの患者さんが家族との折り合いのことを話しはじめます。その話を聴いているうちに患者さんは、今までの医療の中でもいかに不当に扱われたかを話題にしてきます。そういう話の中で、実は、面接している看護師が自分をどの程度理解して、保護してくれるかを確かめているといったことが伺われるのです。看護師もそれに反応し、この患者さんをどこまでケアーしきれるであろうか、そういう不安を持ちながらも、一方で途切れ途切れでも患者さんが家族のことを話し、自分の人生を語る、その中に看護師の方がさらに共感をしていくこういうような事柄があるのです。こうしたことはやはり集団のミーティングをやる中で、話題にして、看護師の方のいろんな考えを聞いて、サポートしてあげることが必要になるのです。私が大学に勤めていた頃、多くの大学では急性の患者さん、あるいはあまり慢性化していない患者さんを診るのが普通でしたが、私は大学というところは、難しい患者さんを治療して、治療方法を考えるところだと考えておりましたので、慢性の患者さんも引き受けて治療法を開発しようとしました。大学に連れてこられる患者さんですから、家族も比較的に安定しておられて、患者さんの年齢も最高40歳半ばぐらいでしたが、こうした看護者との間にあるつながりというものができてはじめて患者さんたちは他のプログラムに関心を持ち始める、つまり二者関係から三者関係と関心が広がっていくことが明らかになりました。SSTを最初から長期の慢性の患者さんに入れようと思ってもなかなか続かないことが比較的多いし、また、入るのも難しいのです。こういうような基本的なことをやってからはじめて集団活動に参加が可能になり、外泊もしはじめる。中にはSSTに入りたいという人もいるし、運動療法に入りたいという人もいるし、作業療法に入りたいという人もいる。このように最初にSSTの個人的モジュールに等しい方法を講じてないと、集団に入っていくことが出来にくいのです。18人ほど退院できないという患者さんに、こういうアプローチをしますと、16人の方が退院できました。その時のSANSという陰性症状評価尺度、精神症状評価尺度も、適応度もすべて改善するという結果を得ることができました。これは大学病院に来られた患者さんですから、普通の精神科病院にいらっしゃる方とは障害の程度がだいぶん違うでしょうが、しかし基本的なアプローチというのは同じだろうと思うのです。ところで、福岡県に県立大宰府病院というのがありますが、この病院を改築するために病床を減らしたのです。それで何十年と入院している高齢者を特別養護老人ホームに移っていただいたのです。移った後、副院長がどうなっているだろうと見て歩いたら、精神症状が安定していて、入院中よりもよくなっていた。なんたる皮肉と。特別養護老人ホームの職員のコメントを聞いてみると、「おとなしくて、多少変わったとこはあり、時にがんこだけど、施設での生活に問題はない。」。副院長のコメントは、「偏見のない処遇とQOLへの配慮の効果だろう」と。これは、特別養護老人ホームに入れる人を選んで移ってもらったということもありますが、精神科病院でのアプローチの仕方は、よく働きかけていると必ずしも言えない。慢性の患者さんになると、通り一遍のことはしてはいるけど、ベットサイドで、患者さんに話をしたりするといったことは、ついおろそかになるとこういうことがあるのだろうと思います。先ほど、私は大学での患者さんを主に行った試みについてお話いたしましたが、私は普通の精神科病院で長期に入っている人たちをどう社会復帰できるように応援したらいいのか、それを考えるために、慢性統合失調症患者さんの生活のしづらさ、そういうものを少し調べてもらおうと思って、藤川英昭さんという私のところにいた人、今は大学を離れていますけど、この人に、福間病院という大きな精神科病院で、統合失調症の古い患者さんたちを調査してもらったのです。WHOの生活しづらさ測定票と自我機能評価表とを組み合わせて因子分析をしてもらったら、4つぐらい、因子が出てきたのです。第一因子は生活の技能、自己管理が困難とか、活動性が低下しているとか、動作がにぶいとか、ベッドにもぐるというような、これは普通の病院ではよくあることですが、第二因子は認知障害、筋違いな話とか、第3因子は、関心のなさ、第4因子はマナー、ルールに関する能力でした。これに関して藤川さんは、ライフスキルに関する治療方略としては楽しむ体験を、認知障害に関しては、新しく出てきている薬と環境の調整を奨励しています。このように古い患者さんにも障害がいろいろあって、その障害にあわせてやらなければならないということです。その際に、私が大学で試みた患者さんの傍に座って患者さんと治療者との間の関係をつくりあげていくことがまず必要だったことが参考になるだろうと思います。私が数年前、台北医大に行った時、普通の職員の研修棟がありましたけど、そこに「SEALS」ですべての患者さんに接しようと書いてあったのです。
smile笑顔で、
eye contact視線をあわせて、
address患者さんの名前を呼んであいさつしよう、それから
listen患者さんの話に聴き入る、心を込めて
serviceする。これはSSTの基本と全く同じですね。長期入院患者さんに対しても私どもはこうしたSSTの基本的な技術というものを日頃身に付けて、病棟の中にSST的な態度というのを導入していく、そうすることで患者さんとスタッフとの間の関係性の改善を図ることが出来るのです。病棟にいる長期入院患者さんを見ていると、スタッフの方は忙しいため十分やっているつもりでも実際は、陰のほうに追いやられている、あるいは吹き溜まりのゴミのようにたたずんでいる。一日の間にほとんどスタッフと物を言わないまま生活しているといったことがあると思うのです。スタッフがSSTを学ぶことによって個々の患者さんに対しての関心を高めていく、そこへ関係性が改善される。それは私が大学で看護師のみなさんに最初20分間座ってほしいと言ったこと、そこから出発して、集団の中に、SSTの中に入っていけたようなことがらが、一般化できるのではないかと思うのです。スタッフに抱えられてはじめて集団の中に入っていける、そうしてはじめてQOLが改善される。そうしてSSTを利用して社会に向かって退院する可能性というのがあるのだろうと考える次第です。どうか皆さん、長期の入院患者さんの社会復帰に対して、病棟の隅々までSSTのマインドを行き渡らしていただきたいと思います。