
−SSTの効果って何だろう?−
(第10回)
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自治医科大学 精神医学教室 岩田 和彦 |
前回までは治療効果を研究した結果にどの程度の妥当性があるかということに関してお話してきました。RRやNNTなどの様々な効果を示す指標のもつ意味などお分かり頂けたでしょうか?
今回はいよいよEBMの最後のステップ、第4段階「得られたエビデンスを患者さんに適用する」ことについてです。
前回までの結果に関する吟味は、その論文自体の妥当性についての検討であり、これは「内的妥当性」の吟味と呼ぶことができます。次に考えるべきことは、論文以外の対象についてもその結果はあてはまるか?ということです。これは「外的妥当性」を検討するということになります。
自分が行った研究でない限り、報告された研究の対象者と、自分が治療・援助しようとしている人とは一致しません。逆に「この論文ではSSTは効果があると書いてあるけど、自分のところでは同じことやってもきっとダメだよ・・・」と感じてしまうことのほうが多いのではないでしょうか。論文化された研究の対象者はきわめて一般化されていますが、私たちが日々接しているのは心の病だけでなく、家庭・仕事・経済的なこと等様々な悩みを抱えた個々の事例で、誰一人同じ人はいないわけです。
よって報告されている研究結果を目の前のクライアントに適用できるかどうか?は非常に難しいことですし、ここにはマニュアルは存在しません。これまでシステム化され基準にそって判断できてきたEBMも、この段階ではアート(芸術的)な部分が残されているのです。さて、クライアントへの適用に関して、注意すべきことをいくつかあげてみることにしましょう。
1)対象者の差をどう考えるか?
これまでにこのコーナーで紹介した効果研究を思い出してみてください。それらは全て欧米での研究でした。ということはSSTを受けているのは日本人ではありません。同じ日本人でも個人間で病像や背景に差があるのに、まして欧米人となると文化や価値観なども違う可能性もあります。欧米で効果があったから日本でも効果があるかどうか?は考えなくてはならない点です。(よくモジュールの使用に関して、日本語吹き替えのビデオを使うことに関する是非が質問されますが、これと類似した問題です)
2)実施方法は同じなのか?
同様に実施方法も私たちの現場での方法と論文に発表されている方法は異なっている場合があります。多くの効果研究はいわゆる基本訓練モデルだけでなく心理教育的なセッションを含めていますし、また介入頻度も少なくても週1回、1セッション90分で、多ければ週12時間という報告もあります。ほとんど毎日SSTのセッションがあり、これは日本の事情とかなり違います。薬物療法に適切な1日の投与量と服薬回数があるように、心理社会的治療の適切な介入頻度はどの程度か?についての研究が期待されます。
3)ひとつの研究だけで判断できるのか?
これはこのコーナーの第3回でお話したことですが、エビデンスの質の高さはひとつのランダム化比較臨床研究よりも、いくつかのランダム化比較臨床研究のメタ分析のほうが、より適用において妥当性が高くなります。これまでにコクランライブラリーのシステマティックレビューをいくつか紹介しましたが、コクランライブラリーやクリニカルエビデンス(これは様々な治療のエビデンスを教科書にしたようなもので、日本語訳版も出版されています。)などの2次的データベースはそれゆえに価値が高いといえます。コクランライブラリーの提供元となっているコクラン共同計画は、医療の質を高める上ではなくてはならない国際共同研究と言えるかもしれません。
4)メリットはデメリットを上回るのか?
これが最も重要で、最終的にメリットがデメリットを上回らなければその治療をクライアントに適用するわけにはいきません。治療の効果発現の指標として以前NNT(Number
Needed to Treat:治療必要数)を以前紹介しましたが、同様にNNH(Number
Needed to Harm:害必要数)というのもあります。何人治療することで1人に害(副作用)が生じるか?という指標です。これらの数値をよく検討した上で治療法を決定することになるでしょう。
以上を考慮しながら、最終的に得られたエビデンスの適応可能性を判断することになります。これでEBMの4つのステップが終了となります。
ここでこれまでお話してきたEBM実践のための4つのステップをまとめておきます。
ステップ1:臨床上の問題点の抽出と定式化(PECO)
ステップ2:問題を解決するためのエビデンスの検索
ステップ3:得られたエビデンスの批判的吟味
ステップ4:エビデンスを現場に適用する
これらのステップに従ってEBMは実践されるわけです。
「EBMは料理のテキスト(cook book)だ」という批判を時々耳にします。私はもちろんEBMが全てとは思いませんし、RCTでなければ研究でないとも思っていません。エビデンスに医療者や患者さんは何が何でも従わなくてはならない、というのは大きな間違いです。大事なことは目の前にある問題を、最も効率よく最良の結果に導くためにはどうすればよいか、ということです。そして、そこで得られた治療方法を実際行うかどうかは、最終的にはクライアントが選ぶべきことです。私たちに必要なことは、クライアントが判断しやすいように、十分な量の情報を分りやすい表現や数値で提供することだと思うのです。「インフォームドコンセントとは、患者さんにもわかりやすい形にEBMのプロセスを組みなおす作業である」1)という先生もおられますが、まさにその通りです。
さらに上記の4つのステップでEBMを実践するといっても、これで医療が終結するわけではないのは言うまでもありません。4つのステップを経て、私たちはいよいよ治療や援助を開始する入口に立てるわけです。EBM実践はこれからの長い治療・援助の始まりの終わりにすぎません。しかし、EBMの実践は、どうしてよいか分らずに日々悩む私たちを、これまで以上に希望を持つことができる治療の入口に導いてくれることでしょう。
1)名郷直樹.EBM実践ワークブック−よりよい治療をめざして−.南江堂,1999
(この本の続編が昨年出版されましたがEBM理解には非常に有用な教科書です)
Supplementing Clinic-Based Skills Training With Manual-Based Community
Support Session : Effects on Social Adjustment of Patients With Schizophrenia
Glynn SM , Marder SR , Liberman RP , et al
Am J Psychiatry 159(5):829-837,May2002
Objectives: SSTは統合失調症の心理社会的治療として有用である、しかし毎日の日常生活へのスキルの般化という観点からは、必ずしも最適ではない面もあった。この研究では、行動面に焦点をあてた地域での支援プログラムを加えたクリニックでのスキルトレーニングを評価したが、この方法は外来患者が自立生活技能を各々の自然な生活環境のなかで使用できるように、その練習機会や勇気付け、そして行動の強化を改善したものである。
Method: 63人の統合失調症患者をランダムに、@60週間のクリニックでのスキルトレーニングのみを行う群と、Aクリニックでのスキルトレーニングに地域でのマニュアル化された支援プログラムを付加した群に割り付けた。さらに薬物療法においてもランダムにハロペリドール投与またはリスペリドン投与に割り付けた。治療者のマニュアルへの忠実度は測定された。対象者の訓練前から訓練後にかけてのスキルの獲得が評価され、まずアウトカムとしてSocial Adjustment Scale-UとQuality of Life Scaleでの評価が行われた。(クリニックでのスキルトレーニングは初めの24週は服薬・症状自己管理モジュール、次の12週は問題解決技能訓練、最後の24週はSuccessful living skillに焦点をあてたセッションが実施された。また地域での支援プログラムは、自宅や喫茶店や薬局などで必要な行動、例えば雑談したり、電話で副作用を相談したりすることなどを練習した。)
Results: 対象者の71%がこの研究を完了した。治療期間中に精神症状の再燃を認めたものはわずかに6人のみであった。使用薬物による特異的な社会的機能への影響の差は認められなかった。介入後両方の心理社会的介入とも社会的機能はやや改善していた。クリニックでのスキルトレーニングに地域での支援プログラムを付加した群は付加しない群と比較して、SAS-Uでは全般的適応度、役割遂行機能、家族関係の面で有意に改善を認め、さらにQLSによる評価でも有意に大きく、速やかな改善傾向を認めた。
Conclusions: 症状再燃を10%以下に抑えるような適切で効果的な抗精神病薬による薬物療法が行われることで、多くの統合失調症患者はクリニックでの疾病自己管理技能や社会生活技能の訓練を受けることが可能であった。クリニックでのスキルトレーニングが実生活場面でのトレーニングや相談によって強化されると、スキルの日常生活への移行は増大する。これらの効果は投与された薬剤の種類によらず認められるものであった。
