−SSTの効果って何だろう?−(第13回)
  福岡大学 人文学部 皿田 洋子
 
今回紹介する3つの研究は、ロンドンとイングランド東部の患者さんを対象にElizabeth Kuipers らのグループが行った認知行動療法の効果研究です。認知行動療法が精神障害者にも効果があるという研究はいくつかありますが、この研究は、対象者数も多く、さらに無作為割付による統制研究でありますから、得られた結果はかなり信憑性が高いといえるでしょう。第一の研究(1997)では研究の概略が紹介され、コントロール群との比較においてどのような効果が得られたかが報告されています。第二の研究(1997)は治療効果を予測する因子を明らかにしたものです。第三の研究(1998)は認知行動療法の効果がどれほど維持されるかをみたもので、治療終結から9ヶ月後に再評価を実施して検討しています。15巻3号でも岩田和彦先生が認知行動療法の効果研究を紹介されていますので、さらに理解がすすむのではないでしょうか。
 
London - East Anglia randomised controlled trial of cognitive - behavioural
therapy for psychosis T: Effects of the treatment phase
Kuipers E, Garety P, Fowler D ,et al
Br J Psychiatry 1997;171:319-327
 
(目的)精神障害者にも認知行動療法が効果的であるかどうかを明らかにする。
(対象)イギリスの3都市(London,Cambridge,Norwich)に住む60人の患者である。選ばれた基準は、最近少なくともひとつの陽性症状(妄想または幻覚)があり薬物治療に反応しにくいことである。この60人を認知行動療法群28人、コントロール群32人に無作為に割り付けられた。平均年齢は(38.5歳、41.8歳)平均罹病期間は(12.1年、14.0年)である。
(治療法)認知行動療法は、個別に9ヶ月間、一回のセッションは1時間で最初は毎週、次第に隔週実施された。治療は、マニュアル(Fowler et al,1995)にそって個別に実施された。使用された行動療法テクニックは、活動計画、リラクゼーション、スキルストレーニングを含むものである。治療目標は、@精神症状による苦痛の軽減、A抑うつ、不安、絶望のような情緒的問題の軽減、B再発と生活障害の危険性を防ぐために個人への積極的な関わりを増進することである。
(結果)
@Brief Psychiatric Rating Scale(以下、BPRS)において、認知行動療法群の方が顕著な改善を示した。この評価尺度は、主要な精神症状とその重症度をとらえるものである。
A認知行動療法群の80%が治療への満足を表明し、50%が治療によく反応した。
 
      
        認知行動療法群     コントロール群
            人数    平均点    人数   平均点
  開始時      27     26.4     26    24.5
  3ヵ月後     25     22.2     27    22.3
  6ヵ月後     25     21.2     27    22.9
  9ヵ月後     23     19.9     24    22.7
 
(結論)認知行動療法は、薬物療法に反応しにくい罹病期間の長い精神障害者の症状の改善をもたらす。
 
London - East Anglia randomised controlled trial of cognitive - behavioural
therapy for psychosis U:Predictors of outcome
Garety P, Fowler D, Kuipers E, et al
Br J Psychiatry 1997;171:420-426
 
(目的)認知行動療法の治療効果を予測する因子を明らかにすることである。
(結果)BPRSの症状項目でコントロール群に比べて最も変化がみられたのは、猜疑心と不自然な思考内容と幻覚であった。また、妄想への確信と妄想が社会関係や行動に及ぼす影響が減少したとの陳述が得られた。
(結論)認知行動療法群における良い結果を予測する変数は、妄想に関して認識の柔軟性を示す反応と最近の入院回数である。
 
London - East Anglia randomised controlled trial of cognitive - behavioural
therapy for psychosis V:Follow-up and economic evaluation at 18 months
Kupers E, Fowler D, Garety D, et al
Br J Psychiatry 1998;173:61-68
 
(目的)治療が終了して9ヶ月後(開始時から18ヶ月後)の追跡調査を実施して、認知行動療法の効果が維持されるかどうかを明らかにすることである。
(結果)@18ヶ月目の追跡調査に参加できたのは、認知行動療法群は23人、コントロール群は24人であった。BPRSの得点は、認知行動療法群では治療終了後9ヶ月後もその効果が維持されていた。
  
       
         認知行動療法群     コントロール群
            人数    平均点    人数    平均点
 開始時      23     26.35    24    23.96
 18ヶ月      23     18.78    24    23.50
 
APresent State Examination(PSE-10)によって明らかになった主な精神症状の3ヶ月ごとの変化を質問票(Personal Questionnaires) を用いて検討した結果、認知行動療法群は妄想が軽減し、幻聴の頻度が減少するなどの改善が認められた。
 
 
(まとめ)
この3つの研究は、幻覚、妄想が顕著で薬物治療にあまり反応しない難治の統合失調症の患者の症状を軽減するのにSSTを含む認知行動療法が効果的であることを実証したものです。薬物治療に頼りがちなわが国では、薬物の恩恵を受けることができない難治の患者さんは、漫然と長期に亘って入院生活を続けることになります。認知行動療法は症状の軽減をもたらすだけでなく、同時に生活技能の改善をももたらしますので、リハビリテーションがすすみ、社会参加も可能になります。薬物の効果があがりにくい患者さんに、積極的に認知行動療法が実施されるよう働きかけていかなければなりません。