2.地域生活支援の現状と今後のあり方
 
長崎ウエスレヤン大学 田中英樹先生

1,最近の動向――「はじめに」に代えて
1)平成15年以降の「新障害者プラン(仮称)」をどう策定するか。政府は「新しい障害者基本計画に関する懇談会」を平成14年2月に立ち上げ、新「障害者基本計画」の議論を開始した。この基本計画の前半5か年の重点実施計画が新プランとなる。同時に平成14年で終了する「アジア太平洋障害者の十年」もさらに十年の延長が決まっている。
2)平成11年6月4日に「精神保健及び精神障害者福祉に関する法律等の一部を改正する法律(略称;精神保健福祉法)」が改正・公布され、その一部である市町村事項は、平成14年4月1日から施行された。今回の改正により、精神障害者の生活支援は保健所からの移管事務(通院医療費公費負担事務・精神障害者保健福祉手帳の申請窓口の受付)に加えて、在宅福祉サービスの提供体制を整備しつつ、福祉的な相談を担うという市町村を基盤としたケア体制の整備という新しい段階を迎えることになった。
3)2000年5月に社会福祉事業法の社会福祉法への改称・改正があり、併せて身体障害者、知的障害者、在宅の障害児に係る福祉サービスの提供・給付制度も措置制度から(民法上の)契約制度・利用制度への変更等を内容とする法改正が行われた。障害者関連の実施は2003年度からである。障害者ケアマネジメントは、これら新しいサービス利用制度や施策転換において重要な役割を果たすものと期待されており、1998年3月の障害種別ケアガイドライン(旧・厚生省)の提示以来、国及び都道府県・指定都市において、「障害者ケアマネジメント体制整備推進事業」を実施し、ケアマネジントと従事者の養成研修を進め、全国的な普及に着手した。
 
2,地域生活支援の基本枠組み(Framework
 1) 精神保健、精神医療、精神障害リハビリテーションと障害者福祉の4分野を統合   し、本格的な予防活動の強化、継続した良質な医療の提供、リハビリテーションの推  進(障害を持つ当事者の自己決定能力を高める→リハビリテーションを活用するコン  シューマーへの成長を支援する→コンシューマーの判断を待って具体的リハビリテー  ション・プログラムを開始する;エンパワーメント・アプローチ)、自立生活支援   (障害者は「障害」そのものよりも社会の「偏見」の犠牲者になっている)の総合的   な施策を柱として、住む場、働く場、憩う場、癒す場を地域基盤に整備する。
 2)基準――世界標準(グローバル・スタンダード)かつ地域基盤(コミュニティ・ベ  ーシッド)、当事者本位(ニード・オリエンテッド)の3つの視座
 
3,地域生活支援の現状 
 障害者プランが発表されてからの7年間、精神障害者に係わる施策動向は、大都市特例の施行、障害保健福祉部の創設(平成8年)、精神保健福祉士法の成立(平成9年)、ケアマネジメント従事指導者養成研修事業の開始(平成10年)、精神保健福祉法の改正(平成11年)、精神障害者社会復帰施設の設備及び運営に関する基準の公布(平成12年)、全国こころの美術展の開催(平成13年)、市町村精神保健福祉業務の施行(平成14年)など従来にも増してコミュニティケアの流れを明確にしつつ推移している。
 この流れは国全体の予算動向でも、精神保健福祉関係予算の尻上がりの増加基調でも裏付けられている。例えば、公費負担医療費を見てみよう。
 措置入院患者数は減少(平成7年度5,572人→平成12年度3,247人)を続け、その入院医療費も113億円から平成13年度は54億円と半減する一方、通院医療費負担による通院患者数は増加(平成7年度337,910人→平成13年度578,150人)を続け、その通院医療費(国庫予算)も167億円から平成13年度には415億円と大幅に増加している。しかしながら、この7年間に国民医療費全体に占める精神科医療費の比率が全く伸びていない(約5.2%前後)ことでもわかるように、マクロ的には評価が難しい面もある。
 この間、地域の動向も大きく変化進展した。障害者プランに基づく精神障害者社会復帰施設が現出しだし、小規模作業所やグループホームはなおも増加の勢いをゆるめない。各地で草の根的なNPO法人の設立も始まっている。精神障害リハビリテーション活動も大きく進展した。また、精神障害当事者が発言を強め、精神保健福祉ボランティア・グループは全国交流集会を持つまで成長している。全国組織でも全国精神障害者社会復帰施設協議会、本学会を始め日本デイケア学会、日本精神科救急学会の立ち上げも行われた。
 にもかかわらず、精神障害の地域自立支援が本格的に始まったとは言えない状況にある。
精神障害者の実態は、精神病院入院中の者が33.2 万人で、社会復帰施設などの入所者が約1万5千人おり、救護施設などの施設入所者を加えると35,6万人は入院・入所しており、その他が在宅で生活している。入院者でみると、入院期間が5年以上の人が、48.3%を占めており、60歳以上の入院患者は39.5%と高齢化が進行している。在宅者では、約70万人が通院医療を受けており、小規模作業所や精神科デイケア、保健所デイケア、社会復帰施設などに通所中が約5万人いる。数万人はアルバイトを含む仕事を確保しているが、その多くは在宅で特別の役割もなく、十分なサービスを受けられることなく暮らしている実態にある。
 その原因は、障害者プランそのものに帰する点も多い。
 さて、障害者プランの達成できなかった点はどこにあるだろうか。
 第1に、2〜3万人程度が計画期間内に退院し、地域で生活することとした障害者プランの目標は、結果としてこの7年間で約5千人という微減の退院を生み出しただけである。整備すべき数値目標を明示した精神障害者社会復帰施設である生活訓練施設、福祉ホーム、授産施設、福祉工場、地域生活支援センターを始め、グループホーム、社会適応訓練事業、精神科デイ・ケア施設などは達成率に差はあるものの、総じて長期入院者に退院を促進する効果的な社会復帰施設・事業になっていない。
 第2に、精神障害者の社会的自立を促進するため、保健福祉手帳制度の拡充やこころのバリアフリーを促進するための精神障害に関する正しい知識の普及、権利擁護、各種の地域精神保健福祉施策の拡充などは、ほとんどが自治体施策任せであり、自治体間によるサービス格差は広がり、他の障害者施策と大きな格差の存在も是正する水準に至っていない。
 第3に、精神障害者の有する疾患部分への対応策として精神病院の近代化整備を始めとする療養環境の整備、病棟開放率の促進、地域におけるソフト救急を含む精神科救急医療システムの整備、臨床心理技術者の資格整備などより良い精神医療の確保の面でも期待した水準に到達していない。
 新障害者プランはこれらを総括し、本格的な脱施設化とコミュニティケアの推進を図り、精神障害者の市民権の回復と地域を基盤としたサポートシステムを構築する目標を掲げる必要があろう。

4,今後の課題
 1)全般的な政策課題
   障害属性別対応の限界――障害の重度化・重複化、高齢化
   手帳制度の一本化、 DisabilityからPersonへの着目
 新・障害者プランの検討、 差別・排除禁止の法制化
 入所施設(病院)から地域生活への移行の促進
    知的障害者の内施設入所11.6万人 精神障害者の内病院入院33.2万人
 統合教育の推進と障害者の生涯学習機会の充実
   障害者の雇用・就労支援の強化
 生涯基礎年金の見直し(2級;約67,000円の現状)
 セルフヘルプ・グループとオルタナティブ・サービス、
 セルフ・アドボカシー パートナーシップ
    ◎ 3障害の統合施策を基本とする(手帳制度の一本化を含む)
    ◎ 脱施設化と地域ケア、人権擁護(差別禁止)を明確にする
 2)精神障害者にかかわる政策課題
   33.2万人の入院患者を世界標準(人口1万人対10以下のbed)に近づける。
   ○厚生労働省は「社会的入院」を71,600人と公表(病院側回答による推計値)
   ○日本精神病院協会調査(1993)では、「条件が整えば退院可能な者」は,全国で    7.4万人(65歳未満5.3万人、65歳以上 2.1万人)
    対象;日精協会員病院(回答84.6% 1,007病院)の在院患者(244,228名)
   (在院患者の重症度は、最重度5.9%、重度21.8%、中等度40.7%、軽度18.5%、院内    寛解10.2%、寛解2.7%・長期在院患者ほど、「中等度」の割合が高い。)
   ○日本精神神経学会は「条件が整えば退院可能」を入院患者の32.5%と推計
    すなわち、これらの入院患者のうち、7万人を越える精神障害者は精神障害
    リハビリテーションの推進と地域での保健医療福祉基盤の整備によって十分退院    が可能ないわゆる「社会的入院」群の人々である。
◎障害者基本法の改正(差別禁止条項、市町村障害者計画の義務規定)を視野に入れる
3)技術的課題
   ○健康づくり運動としてのメンタルヘルス・アプローチ
   ○ 権利回復運動としてのノーマライゼーション・アプローチ
   ○ 「障害は個性である」の功罪
   ○ アクセス課題(申請主義と窓口問題・地域資源・more specialist services
   ○個別のケアプランニングの強化
   ○地域資源の開発とネットワーク化(自己決定を保障する選択肢が十分用意される    こと)(サービスの基盤整備が前提)
市町村での不徹底→
1)「努力義務」規定(市町村障害者計画、市町村障害者施策推進協議会)、市町村障害者社会参加促進事業、市町村障害者生活支援事業、公営住宅の活用(グループホームの本格的な整備)、市町村単独事業
   2)市町村格差の存在――人口規模、財政規模
○ ケアマネジメントと地域のケアシステム
5,精神保健福祉に関する重点具体施策
  1)予防活動の強化に関する施策
   精神疾患予防センターの設立、精神保健週間の設定
  2)精神医療改革に関する施策
   精神病院の改革に関する施策
     一病院病床数の上限規制、精神病床の機能分化の促進
        公立総合病院に精神科ベッドを整備する、精神科特例の全廃
        退院計画と地域連携(退院時指導・精神科訪問看護の義づけ)
        精神医療に関する情報提供(精神科医療情報センター)
   地域医療の充実と推進に関する施策
     ソフト救急を含む精神科救急医療体制の確立
    (クライシス対応を含めた24時間のメディカル・ケア)
    各県に精神科救急医療センター、精神科リハビリテーションセンター
    外来及びデイケア医療の促進、PACTチームを医療圏域ごとに設置
3)地域での自立支援施策
   相談体制の整備拡充施策
    地域生活支援センター、市町村窓口、保健所、精神保健福祉センター
   居住及び生活支援に関する施策(収入の援助を含む)
    無年金者問題の解決、デイホームの整備
    居住プログラムー公営住宅におけるグループホームの促進
    家族支援プログラム、セルフヘルプグループ支援
    精神保健福祉ボランティアの育成
   雇用・就労に関する施策(中間的雇用プログラムの開発)
    精神障害者雇用率制度の制度化、障害者雇用納金制度による事業主支援
    精神障害者雇用に関するノウハウの提供、福祉工場の本格整備
    重度精神障害者雇用企業の設立・育成
    障害者雇用支援センターの設立
   人権擁護・偏見是正に関する施策(教育施策を含む)
    病院・施設への権利擁護官(公務員)の監察制度化
    地域アドボカシーセンターの設置
    中学・高校における教科書の記述、 配置義務施設
4) その他、計画の圏域設定の明示
5) 人材整備計画
 
6,展望――「むすび」に代えて
  ○地域ケアシステムとケアマネジメント
○新たなサービスを生み出していく権限やシステム
  ○地域ネットワークなど
  ○供給システムから当事者システムへ
  ○精神障害当事者・専門家・ボランティア
  ○公私のパートナーと支援組織づくり